沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科 兼 沖縄伝承話資料センター理事 山口真也教授
図書館情報大学大学院(修士課程)で図書館情報学を学び、大学図書館で司書として勤務した後に、1999年より沖縄に司書課程の教員として沖縄国際大学に着任しました。
司書課程で学ぶ学生の多くは地元(沖縄)で司書になって、地域社会に貢献したいという希望を強くもっています。そして、他府県と比べて郷土意識が高い県民が多いとされる沖縄県の図書館で専門職として働くためには、沖縄の文化についての専門的な知識が求められると同時に、文化を継承していくスキルも必要になります。
今回のインタビューで紹介している、沖縄の民話・昔話を学び、情報通信技術を活用して世界に発信していく授業は司書課程のカリキュラムにはありませんが、沖縄で司書を目指す学生にとって大切な学びの場となると考えています。
今回のインタビューを通して、これまでの授業の取り組みを振り返るよい機会を得ることができました。口承文芸学は専門ではありませんが、図書館学との接点を大切にしながら、これからも力を入れて取り組んでいきたいと思っています。
山口先生の編著書 一部紹介:
- 『図書館ノート:沖縄から図書館の自由を考える』(教育史料出版会, 2016,単著)
- 『情報サービス論;情報と人びとをつなぐ図書館員の専門性』(ミネルヴァ書房, 2018,編著)、
- 『学校司書のための学校図書館サービス論』(樹村房, 2021, 編著)
民話アニメ制作を始めたきっかけ
Q: 沖縄国際大学日本文化学科で沖縄の民話や昔ばなしを英訳して出版するというプロジェクトをしていらっしゃいます。このプロジェクトを始めるきっかけは何だったのでしょうか。沖縄民話の専門家でいらっしゃった遠藤庄治(1)先生のお話も交えて教えてください。
山口: 日本文化学科での民話を残していく取り組みは、遠藤庄治先生のご指導の下、日本文化学科の前身である国文学科時代、1980年代からはじまっています。スタートした当時は「口承文芸学」という授業の中で、学生たちに民話の聞き取り調査の課題を与えて、いろいろな地区で調査を行っていたそうです。
私が沖縄国際大学に着任して3年くらいがたった2002年の終わりごろ、遠藤先生は、学生たちと集めた民話を地域にどう還すのか、を考えておられました。
遠藤先生のお話では、民話の中では、「伝説」と言われるような、地域の史跡、名所に関わるものは観光資源として残りやすいけど、動物昔話や笑い話、怪談などは、お年寄りから子どもに伝えていく環境がなくなると消えてしまう、ということでした。沖縄でも次第に「おじい」「おばあ」が語って聞かせる環境が失われてきている、という問題意識をもっておられました。私は、日本文化学科でICTの授業を担当していますので、遠藤先生からの相談を受けて、昔話を題材とした子ども向けのアニメーション(デジタル紙芝居)を作成し始めました。
Q: できあがった作品はどのように使われていますか。
山口: 遠藤先生が定年退職された後は、私が授業の一部を引き継ぎ、アニメーションのCD-ROMでの配布の他に、それらを公共図書館や学校図書館、学童保育などで上映する活動を行ってきました。
また、私はICTの授業の他に、図書館情報学の授業も担当していて、授業を受ける学生の中にも司書を目指す学生も多いので、製本技術を学ぶために、2006年頃からはアニメーションのイラストを使った絵本の制作も行っています。作成した絵本は、公共図書館や学校図書館、公民館図書室に寄贈しています。
2010年ごろからは、よりたくさんの人にアニメーションを見てもらおうと思い、YouTubeやFacebookなどでの動画配信をスタートしました。さらに、2017年に、日本文化学科に新しく「多文化間コミュニケーションコース」ができたことで、日本・沖縄の文化を海外に発信するというモデル学習の1つとして、英語字幕入りのアニメーションをYouTubeで公開するようになり、大学の近くのJICA(2)沖縄の図書室からの要望もあって、英語版の絵本も作ることになりました。英語版の絵本はJICA沖縄の図書室の他、多文化コーナーを設置している県内の公共図書館にも寄贈しています。
一年かけてアニメーション・絵本を作成
Q: 学生のみなさんは、どのようにしてご自分の作品を選んでいるのですか。
山口: 遠藤先生のご指導の下で集められた民話は各自治体が発行する民話集(3)に数多く収められています。遠藤先生が発足された沖縄伝承話資料センターと相談をしながら、私のほうで民話集に掲載されている昔話をピックアップしてグループごとに渡しています。
本来は、学生たちが地元で聞き取りを行い、その話をアニメにしたり、英訳したりして地域に還す・世界に発信していくという学びができればいいのですが、遠藤先生が集められた民話でアニメ化されていないものがまだまだたくさんあることと、授業時間数の関係でなかなかそこまではできていないのが現状です。
Q: 学生さんたちが話を選んでから、本を完成させるまでの過程を教えてください。
山口: 学生たちは、1年間をかけて昔話のアニメーションと絵本作りを行います。まず、4月から8月にある前期の授業では、学生たちは、6~8人ぐらいのグループをつくり、子ども向けにアレンジする作業を行います。民話集に掲載されている昔ばなしは、お年寄りから聞いた語りをそのまま掲載しているものもあり、そのままではアニメーションにはなりません。説明的な文章を登場人物のセリフに変えたり、子ども向けにわかりやすい言葉になおしたり、残したい沖縄の言葉には説明を入れたり、といった話し合いを行います。
民話の中には残酷な表現、差別的な表現が含まれるものもあります。最近の出版物では、童話や昔話の絵本がソフトに書き替えられることも増えてきています。授業では表現の自由や表現規制のことも扱っていますので、グループごとに残酷表現や差別表現を残すかどうか、どこまで残すか、残す場合はアニメーション化する時どんな配慮が必要か、といったことも話し合ってもらっています。
その後、学内のスタジオでセリフやナレーションの録音作業を行います。ここまでがグループでの取り組みとなりますが、これ以降は、個人ごとに、音声データを編集してイラストをつけて、紙芝居形式のアニメーションを作成、YouTubeに公開します。
Q: 英訳の絵本は、どのようにして作成していきますか。
山口: 後期の授業で、前期に作成したアニメーションのイラストをPhotoshop、illustratorなどのより高度なソフトを使ってブラッシュアップしつつ、アニメーションに英語字幕を入れる作業を行います。英訳作業はふたたびグループで取り組み、ネイティブの先生にもチェックしてもらいます。その後、個人ごとにアニメーションに字幕を入れてYouTubeに公開します。
英訳絵本は、アニメーション制作と同時進行で個人ごとに進めていきます。「削って、削って、削って、大事な言葉だけを残すのが絵本」とも言われますので、字幕用の翻訳をそのまま使うのではなく、絵で説明できるところはできるだけ削ってシンプルな内容になるように指導しています。絵本は1人1冊ずつ製本することもありますが、受講生の人数によっては、グループごとに優秀作を1つ選んで製本することもあります。
Q: 英訳活動を通して沖縄の民話に触れることに対して、学生さんたちの感想にはどのようなものがありますか。
山口: 学生の感想については、直接は聞いたことがないのですが、印象として、沖縄の学生は地元の文化への愛着を持っていることが多いので、昔話・民話に対して、古臭いというようなマイナスのイメージはもっていないと思います。むしろ、沖縄の文化だから大切にしないといけない、というふうに素直に、前向きにとらえてくれているので、とても授業が進めやすいです。グループワークをはじめ、学生の取り組みもとても熱心です。今年度の前期は新型コロナウイルス感染症が拡大したこともあり、途中から全面オンラインに切り替わったりする制約もありましたが、不可になる学生は1人もおらず、全員が最後まできちんと取り組みました。
民話とは何か
Q: 日本人は子どもの頃から昔ばなしを本で読んだり、テレビで見たりと非常に親しみのあるジャンルですが、昔ばなしと民話は違うのでしょうか。
山口: 私は昔話・民話の専門家ではないので明確な説明はできないのですが、「昔々あるところに…」というふうに、場所や時代を限定せずに伝えられるお話を「昔話」と呼ぶ、と説明されることが多いようです。伝説や神話は時間や場所が限定されますが、昔話にはそうした性質がない、または希薄なのではないかと思います。参考に、遠藤先生の本から学生が作成した資料をご紹介します。
Q: 民話を通して、生活の知恵、教訓、歴史的背景などを読み取ることができますが、沖縄の民話に特徴はありますか。また、未来への希望や願いを込めて話が展開することもあるそうですが、学生のみなさんに人気がある、あるいは、山口先生ご自身が思い入れのある沖縄ならではの民話があれば教えてください。
山口: かれこれ20年くらい授業を続けていますので、これまでに作品数にして150ほどの昔話を学生といっしょにアニメ化、絵本化してきたと思います。どの作品も印象に残っていますが、「アカナーと鬼」という読谷村に伝わる昔話をアニメ化して図書館で上映したときにこんなことがありました。
「アカナーと鬼」は、村人を困らせている乱暴者の鬼をアカナーという若者が退治しようとするお話なのですが、怒った鬼にアカナ―が捕まりそうになって、木をよじのぼって神様に助けてもらおうとすると、天からはしごが下りてきてアカナ―はそれにのぼって逃げようとします。追いかけてきた鬼はアカナ―の片足を食いちぎりますが、はしごはそのまま上ってアカナ―は月の住人になります。鬼はアカナ―の真似をしてふたたび降りてきたはしごにのぼりますが、はしごは途中でぷつんと切れてしまって、鬼は地上に真っ逆さま。鬼退治を果たしたアカナ―はいまも片足のまま村の人たちを月から見守っています、という内容です。
このお話をアニメした時に、ラストシーンに明るい音楽をつけて「おしまい」と元気な感じで終わるようにしていたのですが、上映後に、年配の女性が私のところに来て、こんなラストでは、アカナ―の痛みとか悲しい気持ちとか、「自己犠牲」というテーマが子どもたちに伝わっていない、という不満をぶつけられました。
昔話には子ども向けの楽しいお話が多いのですが、「楽しい」で終わらずに、そのお話がなぜその地域で語り継がれてきたのか、何を伝えたいのか、しっかり考えないといけないと感じたことを昨日のように思い出します。
英訳民話を通して沖縄民話の魅力を伝えたい
Q: 沖縄文化の理解への一助となればと思い、日本語のわからないアメリカの学生にもよんでもらえるよう、沖縄コレクションでは、山口先生の学生さんの英訳民話作品をフリップブックの形にして昨年からオンラインの沖縄民話ガイドのページで紹介しています。
山口: 昨年度から沖縄コレクションに絵本を登録していただき、電子書籍の形式で読めるようにしていただいていますが、動画だけでなく、絵本も海外の方に見ていただける機会を得て、学生たちのモチベーションがとても高まっているのを感じています。英訳の指導とイラスト作成の指導は、専門の先生にお願いしているのですが、今年度前期の学生たちはとても頑張っていて完成度も高いという評価をいただきました。フリップブックを紹介している沖縄コレクションのウェブサイトは、学内外のみなさんに見ていただけるもので、沖縄の民話の魅力を発信するチャンスだということを学生にも伝えていきたいと思います。
Q: 長く語り継いできた世代の方々が少なくなっている中で、若い世代が継承していくこと、またこれから沖縄の民話のたどる道はどのようになるとお考えでしょうか。
山口: 私が理事を務めている沖縄伝承話資料センターでも、若い世代にどう伝えていくか、ということがよく話題になります。ただ、センターの地道な取り組みを通して、沖縄の小学校や公共図書館でも、子どもたちが昔話や昔話に出てくる文化、遊びなどに触れる機会を増やそうという動きもみられるようになっています。
私が所属している日本文化学科には、教員や司書など、教育職を目指す学生が多いので、沖縄の民話を次の世代に伝えていく人材を養成したり、地域で民話を残そうと頑張っている方々と連携できる人材を育てていきたいと思っています。
注
(1) ^ 沖縄伝承話研究の第一人者。沖縄県市町村を回り民話を聴取、その膨大な資料は現在、沖縄伝承話資料センターに保管されています。
(2) ^ =Japan International Cooperation Agency (国際協力機構)
(3) ^ 当コレクションが収集する沖縄の民話はOkinawa Collection Recent AcquisitionのOkinawa Folktalesのページをご覧ください。